
あれは確かハタチの頃。
当時住んでいた家の前に、羽根を変な風に広げた鳩がうずくまっていました。
よく見ると、どうやら怪我をしているようでした。
右の羽根が折れ曲がり、羽根の内側も血まみれになっていてなんとも痛々しい感じでした。
野生の生き物を助ける事に関しては賛否両論あるかと思いますが、自分の中で「このまま放っておくのは可哀相」という気持ちが勝ってしまったため、私は鳩を箱に入れて近所の動物病院へ連れて行くことにしました。
診断結果は「骨折」。全治一か月。
その結果を受けて、私は一ヶ月のあいだ謎の鳩と一緒に暮らす事に…
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胴体をテープでぐるぐるに巻かれた鳩の姿は鎌倉銘菓・鳩サブレーそのものでした。
それを見て、とりあえず「サブレ」という安易な名前を付けました。
獣医さんに「フンをためないでください」と言われれば、マメに箱の中を掃除して。
「定期的に薬をあげてください」と言われれば、諸々の予定を変更して鳩と一緒にいて。
「暖かくしてあげてください」と言われれば、動物用ヒーターを買って来て置いてあげて。
私はとにかくサブレが早く治って野生に戻れるようにと努力をしていました。
しかし、この鳩のふてぶてしさは異常でありました。
野生だから仕方ないのかもしれませんが、あの三白眼で一通りガンを飛ばした後、とにかく、噛む!噛む!エサや水をとりかえようとする私の手をいちいち攻撃してくるのです。「オメーのエサだよ!!」と言ってもおかまいなし。インコの数倍の大きさである鳩の攻撃力は思ったより高く(嘴も鋭い)、私の手は傷だらけ。学校で友達に「手、どうしたの?」と聞かれて「鳩にやられた」と返す日々が続きました。サブレは、密かに「私にだけ慣れてくれる鳩」というストーリー展開を期待していた私の心を見事にズッタズタにしてくれました。
一番驚いたのは「鳩は好き嫌いが激しい生き物」と知った時でした。エサをあげ始めて何日か経ったとき、常にエサ皿の上にトウモロコシが残っていることに気が付きました。最初はあまり気にしていなかったのですが、更に数日が経過しても同じ現象が起こるので、その時点で「こいつ、もしや、故意にトウモロコシを残しているのでは…」という疑問を持ちました。そこで獣医さんに相談したところ「鳩は好き嫌いが激しいのでそういうことはよくありますよ」という回答が…!せっかく高いエサあげてるのに、ていうかおまいら雑食じゃないんですか、しかも好き嫌いで残すとかふてぶてしいにも程がくぁwせdrftgyふじこlp
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一ヶ月近く経ったある日。
帰宅すると、椅子の背にサブレが止まっていました。
状況を理解するまでだいぶ時間がかかりましたが…
かなり回復したサブレは、テーピングを引きちぎり、箱から出て部屋の中を飛び回り、最終的に椅子の背の上で落ち着いていたらしいのです。
おお、そんなに回復したんだ…良かった…!
思わず涙ぐんでしまいました。
まあその涙は、数秒後にハトのウ○コまみれになった私のベッドを発見した瞬間に干上がりましたけどね。ふてぶてしくも私のベッドの上で寝ていたと思われ。鳩が平和の使者って言ったヤツちょっと来い。
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ウ○コ事件から数日後。獣医さんからも「そろそろ還してあげた方が良いですね」と言われた事を受けて、私はサブレを野生に戻すことに決めました。
家の近くの公園でサブレを放すと、サブレは近くの電線までバサバサと音をたてて飛んで行きました。
決して振り返らずに…
最後までアンタはそんな感じですか…と思いましたが、家に帰ってサブレが入っていた空の箱を見るなり、嬉しいのか悲しいのか寂しいのかわからない涙がワーっと込み上げて来て、小一時間泣いてしまいました。
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時は流れ、数日前のこと。
岡山県にある後楽園で、一匹の鳩に出会いました(写真)。
近づいても決して立ち上がろうとしないそのふてぶてしさを見て、私はサブレを思い出しました。
まさか。ねえ。
※「鳩」を「男性」に置き換えるともれなく私の恋愛観をお楽しみ頂けます。